Information

座談会


大江・田中・大宅法律事務所がこれから果たすべき役割とは

2021年3月、3つの事務所の統合によって新たに誕生した大江・田中・大宅法律事務所。長年にわたり積み重ねてきた訴訟技術に加えて、事業承継やM&A、事業再生などのビジネス取引支援など、それぞれが持つ強みを融合することで、クライアントに対して、「盾」としての価値と、「矛」としての価値を、臨機応変に提供する法律事務所としてスタートしました。

ここでは、ネーミング・パートナー3名それぞれの立場から、事務所が新たに掲げるモットーと将来展望をテーマに、トークディスカッションをお送りします。時代に合わせて再編が進む弁護士の世界において、大江・田中・大宅法律事務所がこれから果たすべき役割とはどのようなものなのか――?

プロフィール
・大江 忠(おおえ ただし) ※写真左
弁護士。1969年弁護士登録。取扱案件は民事・商事関係訴訟、企業法務全般。これまで多くの上場企業の社外役員などを務める。著作として『要件事実民法』などがある。

・田中 豊(たなか ゆたか) ※写真右奥
弁護士。1975年裁判官任官、1996年弁護士登録。取扱案件は民事・商事関係訴訟、知的財産関係訴訟、国際商事仲裁、企業法務全般。著作として『法律文書作成の基本』などがある。

・大宅 達郎(おおや たつろう) ※写真右手前
弁護士。2007年弁護士登録。取扱案件は事業再生、事業承継、M&A取引支援、企業法務全般、各種交渉代理人等。著作として『事業承継法務のすべて』(共著)などがある。


 

▼世代もキャリアも異なる三者が事務所統合に至った理由とは?

――今年3月1日、大江忠・田中豊法律事務所、東京双和法律事務所及び八木&パートナーズ法律事務所が統合し、大江・田中・大宅法律事務所が誕生しました。まずは統合の経緯から教えてください。

大宅 きっかけは、私から田中先生にお声かけをしたことにはじまります。もともと、大江先生も田中先生もロースクール時代の恩師であり、本来であれば雲の上の存在です。しかし、私もキャリアを重ねてきて、私以外の人にも実務家として尊敬するお二人と一緒に業務を行い、学びや成長をする機会を創りたい、私自身もまだまだ学んでいきたいと思い、2018年に私から田中先生に恐るおそる相談してみたのです。

田中 法律事務所が統合するにあたり、まず考えるべきはどのようなシナジー効果が得られるかです。つまり、大宅さんと私たちが一緒になることで、いったい何が生まれるのか。最初に話をいただいた時点で、それを具体的に書き出してみてほしいと大宅さんに伝えました。

その後、大江先生も交えて2年ほどかけてああでもないこうでもないとやり取りを重ねるうちに、「実際に統合する前から具体的なシナジーを想定するのは違うかもしれない」と少しずつ考えが変わっていきました。つまり、「互いの専門領域は異なっていても、いざ始めてみれば何らかのケミストリーが起こるのではないか」と。何より、大宅さんと一緒にやるのは、純粋に楽しそうでしたしね(笑)。

大江 私もまったく同意見でした。私と田中先生がパートナーシップを組むようになって15年以上になります。しかし、ロースクール時代には厳しくて有名だった田中先生と、逆に癒やしの存在と言われた私の組み合わせは、周囲からすると意外に見えたようです。けれど、こうしてうまくやってこられたわけですから(笑)。

付け加えるなら、そうした田中先生の厳しさというのは大切なんです。必要に応じてちゃんと辛辣なことを言える弁護士は、やはり信頼できる。それがパートナーシップとしての強みにも繋がっています。

大宅 望んでいたのは、まさにその部分なんです。弁護士の業務は、予防法務などを含めた訴訟のスキルがあってこそだと思います。しかし、私の主な活動領域は事業承継やM&Aで、訴訟とは少し離れた分野でした。事務所として次の世代の成長を考えれば、大江先生、田中先生とご一緒させていただく意味はとてつもなく大きいと考えました。

――実際に合併を経て、どのようなシナジー効果が期待できそうですか?

大宅 私の目線からすると、大江先生、田中先生の知見に間近で触れながら訴訟案件などに携わることからは、たくさんの学びが得られます。しかしそれ以上に、私が単独で訴訟案件を手掛けるよりも、クオリティの高い価値がクライアントに提供できることの意味は大きいでしょう。チームとして提供できる価値が高まったことが、シナジー効果のひとつなのだと思います。

田中 本来であれば、私は法律家としてそろそろ年貢を納める時期です。なので、これまで培ってきたものを、次の世代に承継できるのは有意義なことですよ。ロースクールの教員になったのも同じ理由でしたから。

大宅 将来を見据えても、若手の弁護士が成長できる環境は法律事務所として強み以外の何物でもありません。法律事務所は人で成り立っているので、人の成長こそが組織の成長だと考えています。

田中 何より、多様なバックグラウンドを持つ人々とディスカッションをすることは、非常に楽しいんですよ。事務所が掲げる「diversity(ダイバーシティ)」という言葉が示すとおり、1つの事象をいろんな側面から検討すること、多重的に見ることは、弁護士としても大切な資質です。

大江 その意味では、うちの事務所ももっと女性弁護士を増やしていきたいですよね。これまでにも「ぜひ先生のもとで」と言ってくれる方は何名もいましたが、経営規模などの問題から必ずしも応じることができませんでした。けれど今後は、男性も女性も、若手もベテランも、そして専門領域の異なる者同士がひとつにまとまるのが、この世界でもスタンダードになっていくのではないでしょうか。

 

▼多彩なバッググラウンドが多様性を生む

――「diversity」という言葉は、大江・田中・大宅法律事務所が掲げるMission Statementの中でも、重要なキーワードですね。

大宅 問題解決、紛争解決にあたっては、多様な視点を持つことが非常に重要です。そして多様な視点を担保するには、世代や性別、過去のキャリアなど、解決にあたる人材にも様々なバックグラウンドを持つ人が必要です。そのような多様で重層的な視点を持ったチームで課題の解決にあたることは、間違いなくクライアントへの価値提供に直結すると思います。

大江 私に言わせれば、こうして法律事務所のウェブサイトを作ることすら、そもそも頭の中になかった発想なんですよ。事実、統合前はありませんでしたからね。弁護士として半世紀以上やってきて、まさか自分のインタビューがインターネットに載る日が来るなんて、という気分です(笑)。でも、こうした古い感覚もどんどん変えていかなければなりません。本当に良い機会です。

田中 我々の世代は、弁護士が自分を過度に露出して仕事をとってくることに、抵抗がありますからね。私自身も、むしろ多少アクセスしにくい事務所であるほうが、それだけ切実なニーズを持つ人と出会えるのではないかと考えていました。

でも、最近になって少し考えが変わってきたんです。もし出会いが遅れることによって被害が拡大してしまったら、本来解決できるものも解決に至らない。その意味で、弁護士による情報発信を通じて困った人がアクセスできるようになることも大事だと思うようになりました。

大宅 法律の世界は医療の世界に似ていて、いわば大江先生や田中先生は著名なゴッドハンドの脳外科医です。そこに誰も簡単にアクセスできてしまうと、本当にお二人にしか治せない患者に手が回らなくなってしまいます。ただ、より多くの人々に先生方の持つ技術を活用するために、チームを作っていくことが非常に大切だと思います。こうして統合が叶ったことで、チームを強化して、少しでも多くの方の役に立てれば嬉しいですね。

――これからどのような事務所に育てていきたいか、今後のビジョンを教えてください。

大宅 事務所としてどのようにクライアントと向き合っていくかという点に関しては、Mission StatementとOur Wayにまとめたことに尽きます。これは、今回の統合の準備段階から、統合後の弁護士全員での協議を経て取りまとめたビジョンであり、スタンスですから。

田中 こうして方針を言語化して、熟成させることができたわけですから、2年の準備期間は決して無駄ではなかったと改めて感じます。この先の人生を法律家としてどのように全うするか。これまでは一人で自問自答していたわけですが、大宅先生からのお声掛けで、期せずして意識下にあったものを言語化、具体化することができました。

たとえばOur Wayの1つとして「私たちは、依頼者を選びます」を入れました。こんな宣言している法律事務所は、ほかには存在しないでしょう。でもこれは、偉そうに依頼者を審査しようという意図ではなくて、情熱をもって取り組める案件に全力を注ぎたいという想いの表れなんです。時間は有限ですから。

大宅 クライアントのニーズに対して、単なるレスポンスを返すのが弁護士の仕事ではありません。自分の価値を適切に認識し、それがどのくらいの問題に対応できるものなのかを判断して、効果的に時間を費やすことが重要です。そうすることが、結果的にクライアントにとっても良い結果につながると考えています。

大江 その意味では温故知新もいいですが、私たち自身が古い知見からも新しい視点からも学べる事務所でありたいですね。そこで法律家として50年以上やってきた歴史が役に立てばうれしいです。

何より、これまで小所帯でやってきた者としては、朝早くに事務所にやってきた時、自分より先に誰かがいて電気がついていることがささやかな喜びにもなっています。同時に「負けた!」と悔しい気持ちもあって、翌日はむきになって早く出てきたりもするんですけど(笑)。こういうのも仲間が増えればこそ。これから、ご一緒しながらシナジーを生み出せるのが楽しみですね。